本屋の神様

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りかさん

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朝の光の清らかさ、春の気配、や、梅雨時の鬱蒼とした雰囲気。
繊細な内面のゆらぎや色合いの変化。
梨木 香歩さんのお話は、そんな目に見えない事象を丁寧に映し出すのが上手いな、と思います。
春の気配がようやく見え隠れするこの時期、読みたくなるのが、
りかさん (新潮文庫)
リカちゃん人形が欲しい、とおねだりしたら、お祖母ちゃんからプレゼントされたのは市松人形の「りかさん」。
主人公のようこちゃんは、思っていたのとちがう贈り物に、ひとときは落胆するのですが…。
不思議な力を持った「りかさん」と過ごしながら、日常の中に隠れている不思議な出来事を経験していくお話です。

お祖母ちゃんからもらった「りかさん」には説明書がついています。それを見ながら「りかさん」のお世話をするシーンは、女の子だったら、ちょっと憧れるのではないでしょうか。お人形専用の小さな器に、毎日一口ずつ、家族と同じ食事をのせてお世話する。お話の中では、お母さんもワクワクしていました。
私も、雛人形の小さな器に、おひな祭りのチラシ寿司とはまぐりのお澄まし汁をのせて差し上げたことがあります。母と一緒にひな壇のお膳にのせるとき、何か愛おしいような気持ちになったのを覚えています。おままごとのような儀式めいた遊びは、気持ちをどきどきさせてくれます。

其処ここに何かの精がいたり、大切にしているぬいぐるみに心があるんじゃないかな、なんて、ほのかに思っている気持ち。
梨木さんはそんな目に見えないことを大事に掬い上げてくれる気がします。

おひな祭りの季節、この本を読みたくなってしまうのは、そんな気持ちが呼び起こされるからかもしれません。

 

(ちなみに、この本は「からくりからくさ」と連作になっていて、続けて読むとより奥深い物語の世界を味わえます。)